神鳥の卵 第30話 |
「わかっているとおもうが、てきのもくてきは おまえだ」 6歳の子供が椅子にふんぞり返って座る姿は威厳とかそういうもの以前に、ただただ可愛いだけだった。幼いながらにスラッとした体型と長い脚の愛らしい容姿だが、椅子が大きいこともあり体制的に無理をしているようにも見える。ルルーシュはかっこつけだからとみな内心思いつつも顔には出さずに主の話を聞いた。 「僕というか、ゼロだろ?」 「おなじだ。というよりも、おまえの こうどうは わかりやすぎる」 咲世子とカレンのようにスザクがナナリーの護衛をするのはいいが、咲世子がゼロとともにゼロの部屋に行き、出てくるときには咲世子と別人の男性になれば、誰でもその男がゼロなのでは?と思うだろう。それを何度指摘しても、「大丈夫だよ。意外とばれないものだよ」とスザクは言い、「変装は完璧だと思いますが」と咲世子も言う。そうじゃない、そういうことじゃないんだ。単純な足し算の問題なんだと説明しても、バレたらバレたでいいじゃないか、どうにでもなるよという回答が返ってくる。自分の力に自信のあるスザク、カレン、咲世子が揃っているからと、妙にガードが甘いのだ。この三人なら、本当にいざとなったらどうにかできてしまうから余計に。 ここで改めてそれを三人に言っても改善は見込めない。 今更行動を変えたところで疑いは晴れないし、ではどうやってスザクを外に出す?となったら、それはそれで問題なのだ。これが屋外ならスザクが咲世子のしていた変装をして外に出て、咲世子が隠れながら移動する・・・という手も使えなくはないが、建物で一本道な時点で警備の目をかいくぐるのは不可能。ギアスをかけるなら別だが。 ギアスにうるさいスザクがいなければ・・・いや、そもそもスザクの問題だからこの仮定に意味はない。 「ルルーシュ様、いかが致しましょう?」 ジェレミアは窓の外を見ながら訪ねた。 スザクたちが帰宅する前まであった全てのドローンは処理したが、先程のドローンはまだ生かしている。といっても屋敷の中は見えないよう窓ガラスはすべて防弾加工されたマジックミラーが使われているし、映像にはジャミングをかけているため、漠然とした内容・・・モザイクのかかった建物や果樹園などしか見えないだろうが。 「何度破壊しても新しく現れるだけだからな。そろそろ相手には退場してもらおう」 「退場?」 「すでに、はんにんは わかっている」 「そうなの!?」 カレンは驚き声を上げた。ならさっさと潰してしまえばいいのに、どうして手をこまねいているんだと言いたげに眉を寄せた。 「こくさいもんだい に なりかねない からな」 「国際問題?」 「相手は超合集国に加盟していない国だ」 「あー・・・・それは面倒ね」 「個人や組織じゃなく、国なのか」 カレンが困ったように顔を曇らせ、スザクは怒りで眉を寄せた。この怒りは、敵に対してなのか、ゼロである自分がちゃんとしていないからこういう暴挙に出る国が現れたと思っているのか。後者の可能性が高い。スザクは時折、自分には荷が重すぎる、自分では役不足だとルルーシュの前では口にすることがある。ルルーシュはそんなことはない、お前以外に適任はいないと常に言っていたが、ルルーシュというカリスマにはどうあがいても勝てないと思っているため自信がつくことはない。とはいっても、スザクは自分以外にルルーシュの後継者はいないという自負もあるのだが。 「でも、ゼロを追って何がしたいのでしょう?」 ティーカップをソーサーに戻しながらナナリーが訪ねた。 「りゆうはいくらでもあるだろう。だが、もんだいは そのしょうたいが すざくだということだ」 ゼロを追う理由など100や200では済まないぐらい思いつく。そのどれなのか絞り込む方が大変だ。こちらとしては死んだはずの枢木スザクが生きているということ。それもゼロとして力のある立場にいることが何よりも問題だった。そもそも、ルルーシュがゼロであった時、正体が知られれば黒の騎士団は崩壊すると考えていた。いまは指揮系統も理想の形で完成しているから、ゼロの正体が知られたところで崩壊はしないが、悪逆皇帝の騎士がゼロとなっている理由・・・こじつけなら幾らでもできる。下手をすれば、ゼロレクイエムの真相がすべて知られてしまう。 行政特区はユーフェミアが皇帝により薬で操られていたことでおきたものだった。ユーフェミアの策は皇帝の意に反するものだったため、あのような形で失敗させたのだ。ブラックリベリオンの時、ゼロからその事実を知らされた専任騎士のスザクが、ユーフェミアの仇を取るためシャルルに近づき、ナイトオブラウンズとなった。その後実は裏で操っていたのが悪逆皇帝となったルルーシュだと知り、取り入った。ダモクレス戦で死を偽装し、先代ゼロの意思を継ぎ、悪であるルルーシュを討った。衣装などは先代が、もし自分の身になにかあったときはとスザクに託していた・・・という物語でもうまく演出すれば民衆に信じさせることは不可能ではない。だが、万が一悪逆皇帝がゼロであったと知られればゼロレクイエムは崩壊する。英雄が悪を討ったあの出来事が茶番になる。そうなればスザクがゼロの仮面を奪われ、排除されてしまう。 「僕が見つかるのは別に構わない。バレてゼロではなくなる事も仕方ないと思ってる。問題はきみだよ、ルルーシュ」 「おれ?」 なんで俺なんだとルルーシュは首をかしげた。「スザクは馬鹿だから事の重大さがわかってないんだな」という呆れた声が聞こえたが、皆はわかってないのはルルーシュだという言葉をとりあえず飲み込んだ。いや確かに悪逆皇帝本人だが見た目がこれなら本人だと思われないだろう。だが、そっくりな子供というだけでも大問題なのだ。 「咲世子さんが最初勘違いしただろ。ルルーシュの子供じゃないかって。世間だってそう思うに決まってる」 なるほど。とルルーシュは頷いた。「スザクにしては考えているな!」と、褒めているのかけなしているのかわからない言葉が聞こえたが、自分のことになるととたんに考えが甘くなる人物にツッコミを入れるだけ無駄なのでこれも流された。「なるほど、悪逆皇帝の落し胤をゼロとナナリーがかばっていて、カレンたちも加担しているとなると問題があるな。それならいっそ整形手術を・・・」顔が似てる事が問題なら、ガラリと変えてしまえばいいだけだ。と、朗らかな笑顔で考えているので、みんな思わず立ち上がった。心の声は冗談ではなく本心だ。これはまずいと、スザクは射殺しそうなほどの形相で叫んだ。 「だめ!絶対ダメだ!」 「それは駄目ですお兄様!」 ナナリーも信じられないと拒絶した。 今にも泣きそうな顔にルルーシュはぎょっとした。 「駄目に決まってるでしょ。馬鹿じゃないの?」 スザク、ナナリー、カレンに即反対されルルーシュは眉を寄せた。 C.C.も立ち上がっていたが、皆に先を越されたのもあるがひよっこ共と同レベルの反応をしてしまったと慌てて座り直した。冷静沈着で頼れる大人の女性っぽくしなければと紅茶に口をつける。 「せいけいは いぜんから かんがえていた ことだ」 「ダメダメダメダメ!!!!もしやったら許さないからね!!!」 「お兄様・・・っ!!」 「な、ナナリー!?」 涙ぐむナナリーに、ルルーシュは動揺していた。スザクのダメ!はもう耳に入ってない。それがちょっと悲しかったが、最強ナナリーがこちら側だから、整形なんて計画なかったことになるだろう。 「お兄様のお顔、変えないですよね・・・?」 そう言いながら目をつぶり、ルルーシュの顔に触れる。まるで目が見えなかった頃のように。そう、見えなかったナナリーはこうして兄を確認していたのだ。顔が変われば、こうして確かめることができなくなると訴えているのだ。ルルーシュは、それでもまだ整形の必要性をアピールしようとしたが、こらえきれず流れたナナリーの涙に慄いて即座に前言撤回した。 「そうだな、そもそも このはねがあるんだから、おれの そんざいを しられることじたい あってはならない。つまり かおを かえることに いみはない」 「それもそうよね」 ルルーシュが引くことがわかりきっていたため、冷静にやり取りを見ていたカレンが、羽根のこと忘れてたわと言いながらクッキーにかじりついた。ほんのり甘くサクッとした歯ごたえのクッキはルルーシュのお手製だ。優しく甘く美味しい、ホッとする味だった。「何より、今はまだいいが、これ以上成長すれば羽根をごまかすことは不可能だろう」赤ん坊のときより今のほうが羽根は大きい。体に合わせて羽根も成長したのだ。これ以上成長すれば、隠しきれるものではない。次にいつ成長するかはわからないが、18歳のルルーシュの背中に天使のような羽根・・・似合うから良いのでは?と周りはつい思ってしまう。中二病な発言の多いルルーシュだ。羽根も受け入れられそうなものである。 似合うか似合わないかで言えば似合うのは確定だし。 いまだって大きなリボンにフリルの付いた白いシャツに黒いベストを着て、黒い短パンに白い靴下という可愛らしい格好に羽根がついているが、似合う!以外の言葉は出ないのだ。この可愛い生き物を作り変えるなんて正気の沙汰じゃない。 「なら話は簡単だ。その迷惑な敵を潰せばいい」 そもそもそういう話だったのだし、顔云々は話が脱線しすぎだ。だから、今やるべきことはそれしかないだろう?とC.C.が言えば、敵を潰せば解決するのなら、見られたらどうしよう?というの話自体が無駄だとようやく気づき、みな頷いた。 |